いよいよ今月末5月31日に迫ったVoiceUI Show。日本では初めての大規模アレクサビジネス向けカンファレンスです。
今回は、その企画構成に携わり、アレクサビジネス界隈ではもはや知らぬ人のいないクラスメソッド株式会社清野剛史氏(@chao2suke)に、VoiceUI Show、そしてAlexaの未来についてお話を伺いました。
目の覚めるような赤髪で登場した清野さん。彼との話は、音声アシスタントの可能性や課題にまで及びました。なかなか興味深い内容になってますよ!是非最後までお読みください。
VoiceUI Showとは?
smartio編集部(以下編集部):まず、VoiceUI Showについて、改めて概要をお聞きしていいですか?
清野さん(以下清野):コンセプトは日本では初めての大規模のアレクサビジネスカンファレンス。デベロッパー向けのカンファレンス自体は既にやっているけど、この規模のものは初めてです。
現状、スマートスピーカーという言葉の認知度は上がったけど、スピーカー自体の利用者が少ない。だから、ビジネスとしての展開に二の足を踏む人や企業も多い。だからこそ、今から将来的なボイスUIの知見を貯めておくと、将来的にはインターフェースとしてボイスUIがより有用になった時に、先行者利益を狙えますよね。
今回は、導入に必要なコストや予算など、具体的な施策を知ることで、ビジネスとしての活用のきっかけとしてもらうためのイベントっていう感じです。
編集部:募集開始して蓋を開けてみると、すぐに定員に達して増枠しましたね。この大盛況ぶりはそのままボイスUIへの期待値と捉えていいのでしょうか?
清野:びっくりしましたね!100人くらいかなと思ってたんで、嬉しい反面、会場の規模的な悩みが増えてます。やっぱりボイスUI開発をやってみたいという方は多いです。ただ、予算のかけ方がわからないし、許可が降りないからビジネスにつなげられていないというとこが多くて。あと、どの会社にもスキルだけを専門にした開発者はいなくて、本業とは別の余暇としてスキルを作る日曜プログラマの方が多い。開発者人口を増やすのはもちろんなんだけど、プロフェッショナルが生まれないといけないなとは思いますね。
編集部:今回の運営企業として名を連ねるのはAlexaスキル開発エージェンシー企業のようですが、そもそもAlexaスキル開発エージェンシーとは?
清野:Alexaスキル作成の知識があり、それがAmazonに公認されているというもの。いわば、Alexaのプロフェッショナルです。
今回登壇するスピーカーは、AlexaでボイスUIの導線を作るのがうまい方や企業ばかりで、本当にとても勉強になるんじゃないかと思います。それぞれ得意分野も違うので、ボイスUIを使った事業のアイデアをもっていれば、必ずどこかのエージェンシー企業の話と合致すると思いますよ!
たとえば、AWSに関してはウチ(Classmethod)とかね!(笑)
- LINK
編集部:なるほど、当日は個別相談会の時間も設けられているので、アイデアの相談はとてもいいですね!
Alexaを使った事業って?
編集部:ビジネスにAlexaを取り入れている、または取り入れたい企業が集結するようですが、どんな事業がAlexaと親和性が高いですか?
清野:やっぱりコンテンツや自社サービスを持っているところは強いですよ。声優を使ったスキルやキャラクターものがずっと人気が継続しているように、ファンコンテンツは強いですよね。
スキルにおいて会話を行うこと自体をゴールにすると娯楽要素が強くなります。声優の声で目覚ましや、ピカチュウトークなんかはそれですね。反対に、自社サービスへの登録をゴールにすれば、ボイスUIとしての導線が確立し自社の利益につなげることができるという例も増えてきましたね。海外旅行保険のスキルなんかはそれですね。見積もりをパッと出して、契約はAlexaアプリに送られてくるURLからすぐにできる。これはいい導線ですよね。
札幌では、Echoを使ってミニロボットへの指示を行い不良品を取り除く実験をデンソーウェーブと美和電気工業が行っています。本来はパソコンからロボットに指示を出すんですけど、ほかの作業をこなしながらだと操作が遅れてしまったりする。それを音声で行うことで、スムーズに不良品を取り除けるようになっています。
編集部:なるほど。いい活用事例ですね。そういえば、つい先日、日本でもスキル内課金機能がはじまるというニュースが流れましたけど、こちらはどうでしょう?スキル内課金というモデルから考えると、どんなスキルが課金されやすいと思いますか?
清野:スマホアプリの有料プランや課金の流れを踏襲するとは思いますね!まずは、ゲーム、情報系やクイズなどエンターテイメント性のあるもの。アメリカではゲームスキルでかなり課金が行われていますし。
ビジネスでは、例えば株価の情報と個人の思考を照らし合わせておすすめの取引銘柄を教えてくれるなど、パーソナライズされた情報を提示してくれるものが課金と親和性が高いと思います。いくつかの質問と、投資に使える金額を入力すると、最適な銘柄を提示してくれる、みたいな感じですかね。
Alexaスキルの現状と未来について
編集部:先日、Invocable(※コーディング不要のスキル制作サービス)がサービス終了を発表しました。その際、「Alexaの使われ方は、発売当初となにも変わらない。進化していない。」という旨のブログが掲載されました。今、Alexaについて思うところはありますか?
清野:使い方が変わらない件については、いろんなサービスやプラットフォームによってスキル作成の敷居が低くなったので、サービス自体は当然悪いものではないですが、VUIが練られていないものが多くなったというのはありますね。これは言ってしまえば開発者のせいだと思っていて、結局片手間で簡単にやるなら、片手間で簡単なものしかできない。
すごいスキルは、本家(Amazon)が真似するんですよ。優秀なスキルは、Amazonから公式でAPIが配布される流れがアメリカでもありますよね。こうやって開発者とAmazonとの競争が行われていくんだと思います。
だから開発者はAmazon公式に勝てるよう、まだ世にない隙間を縫うようなジャンルでスキルが作れれば強いのではないかと。あと、VUIを考え抜くことです。単純なやり取りでも、ちゃんと練られたものはストレスがない。例えば「しんかんせんクイズスキル」のように、VUIが作りこまれている優秀なスキルは、ちゃんと数字が出てますしね。
#しんかんせんクイズ
— smartio (@smartiolife) 2019年5月15日
スラスラクイズが進むのでストレスゼロです!
ちなみにこれ、解答はかがやきですかね? pic.twitter.com/7ZdYLcwCHw
編集部:しかし今、スキルそのものの認知が世間一般にまだまだ浸透していないと感じるのですが、清野さん自身はそこはどう感じていらっしゃいますか?
清野:スキルで圧倒的に足りないのはプロモーションですね。ユーザーが音楽再生などの特定の機能しか知らないのは、それしか認知されていないから。
認知させるには、ある程度のユーザーへの強制性が必要かもしれない。例えばスマートホームの家電リモコンを何気なく声で操作しているが、必要なAlexaスキルが家電リモコンの製品説明書にすでに書いてあるから、ごく自然な流れでその家電リモコンの専用スキルが有効化され、伸びているんですよね。スキル単体でプロモーションするんじゃなく、製品やサービスからちゃんとスキルへの導線をひいてあげることが重要です。
編集部:たしかに、App Storeでも、普段は目的のアプリがあって、それ目指して検索しますしね。今はその「目的のスキル」が分からない状態なんですね。
清野:Amazonのスキルストアでスキルを検索する人もそう多くはいないでしょうからね。
今クラスメソッドで、会計にレジを使わない、レジレスのカフェを運営しているんですよ。カメラによる監視と重量センサーによるウォークスルーという仕組みで、だれが何を何個取ったかを判断しスマホアプリへ通知して、会計する。なかなか画期的なカフェなんですけど、最初はこのカフェをだれも知らなかった。それが、NHKの番組で取り上げられて一気に伸びてきたんですよ。
スキルも同じで、やっぱりマスに取り上げられると大きな認知のキッカケにはなりますよね。
- LINK
編集部:では、もし清野さんがAmazon echoのテレビCMの企画に関わるとしてら、どんなCMがいいと思いますか?
清野:うーん、使い方や会話をもっと想像できるものがいいと思います。
単純に家電を音声コマンドで操作しているところより、話しかけたら返答することを主体としたもの。例えば「アレクサ、電気をつけて→はい」のような感じではなく、「暗いよね→電気をつけますか?」みたいなやりとり。音声アシスタントは固定のセリフを覚えて使うものではないという、VUIの仕組みがわかるもの。
編集部:たしかに、「正解を言わなきゃ」みたいに考えて逆に会話がぎこちなくなるケースは多いですね。スマートスピーカーの展示を子ども向けのイベントでやったことがあるんですが、逆に子どもは、正解なんて気にせずにバンバン話しかける。それが本来の使い方なのかもしれないですよね。
清野:そうそう。まあ、このCM流したら開発者には相当プレッシャーですけど。(笑)
でも実際、「ハンバーグの作り方教えて」と聞いたらAlexaが自分で判断してクックパッドを開いてくれるじゃないですか。そういうふうにスキルの呼び出しが省略されるアップデートはどんどん進んでほしいですね!
編集部:おっしゃる通り。以下に会話の往復を減らせるかはかなり重要ですね。そういえば、清野さんはご自宅でどんなふうに使っているんですか?
清野:自宅の各部屋に1つはAlexaがいますね。リビングには3つ、お風呂場にもある。家の中に全部で8台あり、家全体どこにいてもどれかが反応してくれる。快適ですよ。よく使うのは、朝spotifyを再生すると家中のAlexaから音楽が流れる。まるで家が起こしてくれているようになるんです。
編集部:Echo Showはお使いで?
清野:Echo Showは見守りカメラとしてつかっています。子どもにちょっと留守番させたり、出張の時に家に呼びかけることがおおいです。海外の遅い回線でもつなぐことができ、かなり画質がきれいなので助かります。あとスピーカーの音が良いよね。
秘蔵のスキルアイデア
編集部:なにか個人的にスキルのアイデアや開発の計画はありますか?
清野:今持っている秘蔵の案で、今年開催されるスキルアワードに応募しようと思ってるんです。ゲームスキルなんですけどね。VUIを用いてゲームをガチで作るとこんなものができるっていうのをね、ちょっと見せたいなと。このゲーム、最初は戦略などのパターンを作る手間があるが、機械学習を絡めて勝手に強くなっていく設計にしたいんです。
スキルと機械学習との組み合わせは、まだブルーオーシャンな領域。アレクサも機械学習で進化するので、(機械学習を用いたスキルは)マッチするはず。
編集部:たしかに、世界中のいろんなユーザーが使うから、学習環境はこの上ないですよね。
清野:そうそう。もっと集合知の活用が行えたらいいのではないかと思うんです。同じスキルを多言語化していろんな国で提供すれば、各国の特徴を捉えることができます。スキルを多言語化すれば、たとえば、地域ごとにどの有名人についてよく聞かれるかが分かる。日本でいう”みのもんた”がアメリカでは誰ということを教えてくれるような。そうやって世界を横断するようなもの、僕は好きですけどね!
こうやってAlexaを広めていきたい
編集部:今後の活動について伺ってもよろしいですか?なにか野望というか、やりたいことってあります?
清野:まだ誰にも言ってないけど、アレクサの虎をやりたい。マネーの虎のアレクサバージョン。
今は、どんなスキルでもほめて開発者を伸ばすことが多いので、逆に、辛口評価でのスキル議論が活発になれば、めちゃくちゃ尖ったスキルが出来上がりそう。アレクサの虎はスキルのアイデアソンなんですけど、「このアレクサの返しにはなんか狙いがあるの?」とか、「こんなに会話増やしたら面倒だと思わなかった?」みたいな、びりびりするような議論の場所。
その場でいいと思ったら、審査員の企業は無償で開発に協力するとかね。例えばこれを福岡でやれば、福岡の代表スキルが完成しそうですよね。
編集部:めちゃくちゃ面白そうですね。画面越しに見ていたいです。(笑)
清野:でしょう?まあこれは一例ですけど、こんなふうに地方が面白い企画をして、東京に向けてじゃなく世界に向けて発信していけたら、もっともっと活性化するんじゃないですかね!
VUIのビジネス活用のキッカケに
編集部:今日みたいに、Alexaについてのアイデアや企画をインプットし、なにかのキッカケにできるのがVoiceUI Showですよね。今、1時間半ほど話しただけでもかなり興味深い話題がいくつもでました。
清野:そうです。VoiceUI ShowはAlexaを使ったビジネスについて話をする場所。関心のある人が見れば、必ず導入のきっかけになると思います。本当に、こんなにVUIのプロが集まって説明を行う機会はなかなかないですからね。本来は全社競合なんですが、VUI界隈を盛り上げるためにやっていくので、かなり有益なイベントになるはずです。そしてもちろん今回だけで終わらせるつもりはなく、今回のイベントで受けたフィードバックから次回以降のテーマを決めるなどしていきたいです。
編集部:ストリーミング枠はまだまだ空きがありますね。
清野:ストリーミング枠では、イベント後に要点を抜粋したアーカイブ(編集)版を配布予定。忙しくて会場に来れない方も、VUI界隈を一緒に盛り上げるための情報は出すので、ぜひ活用してほしい。
編集部:編集して配信とは、そうとう親切ですね。
清野:自分だったら編集されて要点がまとまったのを見たいから、そこは頑張ります。(笑)
編集部:今日は貴重なお話、どうもありがとうございました!
インタビューの最後に記載の通り、VoiceUI Showは、ストリーミング枠に応募しておけば、あとでアーカイブがご覧になれます。これは本当にかなりラッキーなことだと思うので、是非応募を!